翻刻
【右頁】
初生(しよせい)の小児(せうに)とりあげて後(のち)風(かぜ)を厭(いと)ひ静(しづか)なる所(ところ)に臥(ふ)さしめ
世(よ)にまくり【新生児の胎毒を下す薬。乾燥した海人草と甘草を湯に浸した液】と唱(とな)ふる薬(くすり)を時々(より〳〵)あたふべし早(はや)く乳(ち)につける
事(こと)を厭(いと)ふ凡(おふよ)そ一日(いちにち)一夜(いちや)乳(ち)につけずしてまくりを吞(の)せ穢(ゑ)
物(ぶつ)を下(くだ)すべし乳(ち)につける事(こと)早(はや)ければ穢物(ゑふつ)残(のこ)り乳(ち)と倶(とも)に
化(くわ)して胎毒(たいどく)となるが故(ゆへ)なり乳(ち)をつけて後(のち)も七日(なのか)程(ほと)はまく
りを吞(のま)すべし臍(へそ)の帯(を)おつる跡(あと)へ直(すぐ)に七八壮(なゝひやひ)或(あるひ)は十壮(とひ)も灸(きう)す
べし熊胆(くまのゐ)或(あるひ)は麝香(じやかう)の類(るい)を付(つく)る人(ひと)あり苦(くる)しからざれとも灸(きう)
にはしかじ灸(きう)は必(かな)らず灸(きう)すべし○父(ちゝ)教(をし)え母(はゝ)養(やしな)ふて子(こ)を育(いく)する
事(こと)は最(もつと)も至要(しよう)【左に「ダイシ」と傍記】の理義(りぎ)【左に「コトハリ」と傍記】を存(そん)する事(こと)にして心得(こゝろえ)有(あ)るべきの
道(みち)なれども爰(こゝ)に雑(まじ)ゆべき事(こと)ならねば聊(いさゝ)か初生(しよせい)の挙作(きよさく)【左に「トリアゲ」と傍記】と臨(りん)
【左頁】
産(さん)の消息(せうそく)【左に「ヨウジヨウ」と傍記】と産後(さんご)の調護(てうご)【左に「トヽノヘ」と傍記】との三条(さんでう)を併(あわ)せ挙(あげ)て略(ほゞ)其(その)
心得(こゝろえ)をしるし胎養(たいよう)の後(のち)に附(ふ)するのみ
去年(こぞ)の春(はる)通家(つうか)の人(ひと)の需(もとめ)に応(おう)じてかひもらしぬる一家(いつか)の春(はる)の
台(うてな)に登(のぼ)りし人々(ひと〳〵)熙々(きゝ)として生(せい)を養(やしな)ひ給ふこそ世(よ)に病(やま)ひなく
人(ひと)の寿(いのちなが)からん事(こと)を庶幾(こひねが)ふ私(わたくし)の願(ねが)ひに愜(かな)ひしに今茲(ことし)また常磐(ときは)
なる松(まつ)が枝(え)を連(つら)ねて今(いま)一(ひと)しほの愛(めでた)さを世(よ)に博(ひろ)くせんとある人(ひと)の
問(と)ひ給(たま)へるに答(こた)へしを騫(かけ)ず崩(くず)れすみよし野(の)のさくら木(き)に
寿(いのちなが)くせんと望(のぞ)む人(ひと)にまかせて愚(おろか)なるを忘(わす)れ拙(つたな)きを顧(かへり)みず
梓弓(あつさゆみ)春(はる)たつ日(ひ)霞(かすみ)の園(その)に筆(ふで)をとれば巻(まき)の第(ついで)にあたる二(ふた)ま
きとなれり