翻刻!江戸の医療と養生

コレクション: コレクション1

養生一家春 - 翻刻

養生一家春 - ページ 22

ページ: 22

翻刻

【右頁】 して多病(たびやう)なりしが先師(せんし)専(もつは)ら説(とき)示(しめ)したまひし調息(てうそく) の法(はふ)冬(ふゆ)の酒(さけ)夏(なつ)の塩湯(しほゆ)等(とう)を勤(つと)め行(おこな)ひ無病(むびやう)壮健(さうけん)の 身(み)となり病(やまひ)を胗(しん)し薬(くすり)を売(う)るの業(げう)を勤(つと)め膝(ひざ)を 容(い)るゝの茅屋(ぼうおく)に安住(あんぢう)し粗羹(そかう)淡飯(たんはん)に老少(らうしや[う])数口(すこう)を 養(やし[な])ふことを得(ゑ)たり去年(こぞ)の除夕(しよせき)【大晦日】暫時(しはらく)丹竈(たんそう)【仙薬をつくること】の煙(けふり) をとゞめ夜(よ)も半(なかば)過(すぎ)て丑(うし)みつのころ老少(らうしやう)閨(ねや)を閉(とぢ) 僮僕(どうぼく)厨下(ちうか)に眠(ねふ)れば独(ひとり)灯前(とうぜん)に閑坐(かんざ)しけるに先師(せんし) 忽然(こつぜん)と来(きた)り薬架(やくか)の下(もと)に坐(ざ)し《割書:予(よ)|》を喝(かつ)して曰(いわく)汝(なんぢ)も また歳(とし)を守(まも)るか汝(なんち)もとより弱質(じやくしつ)劣才(れつさい)なれば夜半(よは) に寝(いね)て精神(せんしん)を安(やす)んし夙(つと)に起(おき)て其(その)業(わざ)を勤(つと)むべし 【左頁】 世塵(せちん)に襲(おそは)れ苦(くる)しみて貨殖(くはしよく)の念(ねん)を起(おこ)すことなかれと いひ捨(すて)て何地(いづち)ともなく立(たち)去(さ)りたまふと見て坐睡(ざすい)の 夢(ゆめ)覚(さめ)ぬいかでかく正(まさ)しかりしことよと思(おも)ひつゞくる うち村寺(そんじ)の鐘(かね)百八(ひやくはち)の声(こゑ)殷々(ゐん〳〵)と響(ひゞ)き隣鶏(りんけい)角々(かく〳〵)と して暁(あかつき)を告(つ)ぐ山僮(さんどう)早(はや)く井華(わかみづ)を汲(くみ)来(きた)り村妻(そんせい)既(すで)に 骨薫羹(ざうに)の春餅(しゆんべい)を調(てう)じ屠蘇(とそ)の杯(さかづき)を少年(しやうねん)より酌(くみ) 巡(めぐ)らしてともに新禧(しんき)を賀(が)し長生(ちやうせい)を祝(しゆく)し喜(よろこ)びぬ 于時(ときに)文政(ぶんせい)十三年(じうさんねん)大歳(だいさい)庚寅(かのえとら)に舎(やど)り《割書:予(よ)|》年(とし)四十有二(しじうゆうに)の 元旦(ぐはんたん)なりつら〳〵夢(ゆめ)の跡(あと)を尋(たづ)ね思(おも)へは 先師(せんし)常(つね) に教諭(きやうゆ)しおかれつる養生(ようじやう)の道(みち)も時(とき)に臨(のぞ)みて行(おこな)ひ