翻刻!江戸の医療と養生

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養気説 4巻 - 翻刻

養気説 4巻 - ページ 172

ページ: 172

翻刻

【右丁】  せられければ。惚太郎 答(コタヘ)て申けるは。 東⁻照⁻宮は。海⁻道一  の馬⁻上の達⁻人と称(シヨウ)し奉たるとうけたまはりしは。小-田-  原 陣(ヂン)の時。山-路を武⁻者 押(オシ)して過(スギ)させたまふ。丹⁻羽長⁻重。長⁻  谷川秀-一。堀秀-政は。峯(ミネ)すぢをおしけるが。 東⁻照⁻宮の御  旗を見て。皆々 止(トヾマリ)テ押(オシ)-前(マヘ)を視(ミ)てありしが。爰(コヽ)に一ッの谷川  の細-橋あり。この橋へ行(ユキ)かゝる。人-々橋の下を皆《振り仮名: 歩-陟|カチワタリ》にす。  東⁻照⁻宮には御馬⁻上にて橋-際(ギハ)まて着(ツキ)たまひしかば。三⁻人  の大⁻将は。世に聞ゆる馬⁻上の達人が。あの細橋を陟(ワタ)すを 【左丁】  みよといひあえりけるに。やがて馬より下させたまひて。  御馬は遙(ハルカ)の川下を口つき四五人にて牽(ヒキ)わたしけり。人々  これはいかにとうひけるを。かの大⁻将はともに大に感(カン)じ。  馬⁻上の達⁻人とは。これをこそいふべけれ。真(マコト)の馬⁻上の達⁻  者は。危(アヤフ)きことは決(ケツ)してせぬものなり。殊(コト)に大⁻事の軍を前  におきてのことなれば。かくあるべきことよと称(ホメ)たてまつ  りしと聴(キヽ)-伝へたりと申ければ。《割書:すべての事にわたりて。此|こゝろえあるべきことにて。たゞ》  《割書:馬⁻上のみにはあら|ざるべしとそ思はる。》頼宣卿つく〴〵と聴て。大に怡(ヨロコ)び。直(スグ)に

現代語訳

【右丁】 と問われたところ、惚太郎が答えて申し上げたことには、「東照宮は、東海道一の馬上の達人と称し申し上げていると伺いましたが、小田原陣の時、山路を武者が押し通って行かれました。丹羽長重、長谷川秀一、堀秀政は、峰筋を押し進んでいましたが、東照宮の御旗を見て、皆々立ち止まって前方を見ていました。ここに一つの谷川に細い橋がありました。この橋へと向かいます。人々は橋の下を皆徒歩で渡ります。東照宮は御馬上にて橋際まで到着されましたので、三人の大将は、世に聞こえる馬上の達人が、あの細橋を渡すのを 【左丁】 見よと言い合っていたところ、すぐに馬から下りられて、御馬は遥か川下を口取り四五人にて引いて渡らせました。人々がこれはどうしてかと言ったのを、かの大将たちは共に大いに感動し、『馬上の達人とは、これこそを言うべきである。真の馬上の達者は、危険なことは決してしないものである。特に大事な軍を前にしてのことであるから、このようにあるべきことよ』と褒め称え申し上げたと聞き伝えていると申し上げたところ、《すべてのことにわたって、この心得があるべきことで、ただ馬上のみではないであろうと思われる。》頼宣卿はつくづくと聞いて、大いに喜び、すぐに

英語訳

【Right page】 When asked this, Botaro answered and said: "I have heard that Toshogu was praised as the greatest master of horsemanship on the Tokaido. During the siege of Odawara, when warriors were pressing through mountain paths, Niwa Nagashige, Hasegawa Hideichi, and Hori Hidemasa were advancing along the ridge, but when they saw Toshogu's banner, they all stopped and looked ahead. Here there was a narrow bridge over a valley stream. As they approached this bridge, everyone crossed on foot beneath it. Toshogu arrived at the bridge's edge on horseback, so the three generals said to each other, 'Let us watch this renowned master of horsemanship cross that narrow bridge.' 【Left page】 But immediately he dismounted from his horse, and had his horse led across far downstream by four or five grooms. When people asked why he did this, those generals were all greatly moved and praised him, saying: 'This is what should truly be called a master of horsemanship. A true master of horsemanship never does anything dangerous. Especially when facing an important battle, this is how one should act.'" This is what I have heard passed down, he said. {{In all matters, one should have this understanding, and it surely applies not only to horsemanship.}} Lord Yoronobu listened intently and was greatly pleased, and immediately