翻刻
「右帖」
火を一つ立つへしとて約を極る其内も
乗戻す船おふかりけり最早ふねを
戻さんと船中皆々騒ぎしかと仁兵衛
弥舟を留め神らぬ身の是飛なくも
若も風の直なるかと乗戻す船打止め
て暫く時を移しけり日もはや西海を
溜み昏〳〵たる四方の気色いと物すご
き其比迠当りに残りし大船は残の
「左帖」
村丸計也暮果て六つ半比西の方より
墨の如き雲起り光り物折々して風は
西とぞ也にけり北の方と覚しきに浪の
うね〳〵火の光折々かすかに見へければ
いざや舟を戻さんと手んでに用意し
たりけり其内忽大風と成り雷電(ライテン)ひら
めき震動して眼をつぶせるばかり也
帆を巻くとしても船の上立舞ふ