翻刻
「右帖」
西と心得北は磁石を立てつめて今行
船は辰巳の方折れし梶を作りかへ
十日廿日は待へけりなれ共荒波強く
て作りし梶も崩れけり詮方なくも
持合せし鑓も鉾も釘にして又々梶を
作りかへ十日余りは用ひけり斯而日数を
走りても行かふ船の見へさるはいか成る
世界の海なるかと覚束浪を枕として
「左帖」
船のふすまぞとけしなき扨又水にも
とぼしく成り雨を待つ日ぞ久しけり
村々時雨の降(ふ)りければ水桶荷ひ
すり鉢手に〳〵請て水を取り咽(のと)をう
るをす計也又雨の日は工夫して櫓の
屋根に横木を打穴をえりほぎ水を
もらし(し)水桶にため置て暫くは水に
安堵せり扨十一月にも成りければ