翻刻
「右帖」
迚雨風少も和らかず汐行誠に
常ならず瀬戸をかへすが如く也又々
梶も崩れけり最早詮方月弓の櫓の
板を碇にくゝり梶床に釣りおろし
縄を引かせて走りけり早霜月も
十四日雨の上りに西風も次第に浪和ら
かにぞ成りにけり皆々■(とう)の間に寄集り
顔見合申には最早日数も廿五日なり
「左帖」
塩屋の浦ゟ同し風かほと昼夜走り
なば凡二千八百里余りいか成る国へもつ
きへきに嶋にも逢はざるは能々
拙き運のつき細に懸(かけ)るかけとりの
高く飛はざる思ひをなし後悔袖を
しぼりけり中にも仁兵衛は泪を抑へ
我壱人の口に付塩屋の沖に舟を留め
今皆中の難儀と成る我に極る津之