翻刻
「右帖」
乗り衣類諸道具手ん〴〵に船は
取運ぶ日も已に入相に成りければ集り
来りし兵具の人皆散り〴〵に引にけり
磯打浪の音のみして更に此世と思は
さりき年の始の初日影曇ぬ御代に
住みながらいか成れば我々は舟に渡
世す身ながらもかゝるつれなき国に
来て湯水に逢はず死するとは死
「左帖」
骸(から)迠も取敷とつきせぬは只泪なり
未た限りなき命なれば皆々石を
ひろい扶として各々並び伏にけり
夜もはや四ツ半と思ひし比 松明(たいまつ)の火
夥しく又も命取りに来るかと思へば
網に懸りし魚の如く詮方もなく
伏居たり磯打浪の責鼓松吹風の
鯨波修羅の責苦ぞ恐敷程なく