翻刻
「右帖」
近付く松明に見れば異形の数十人
鉄砲たづさへ寝たる所を取囲みかた
先を鑓にて突(つく)もあり脇腹かい
なをほぐるもあり身にも少もたゞ
ざりければ不思議なりける事也手向
へくともおもへ共七日以来喰たちし
ゆへ心も遠く身も疲れ起上ると
すれどどふとたをれ無念とおもふ
「左帖」
計也異形の中ゟ拾四五人船よりむばいし
尻切れどんざ持参し手に〳〵帯解き
着せかへたり脇指守り紙入も残る物
なく引たくり砂をけかけて帰りける
慈悲も情も白波の其行方は知れ
さりき生た心地はなかりけり起あがり
跡見送りいづれ死するは程近しと
難を恨みん方はなし只夜すから