翻刻
「右帖」
念佛して死なば一所と約をしてほの
〴〵明る横雲に東の方と知られたる
山路を見れば高く知る栗の様なる
菓(くだ)物の枝をたわみてなりければ流石
命やかなしくて皆々是をちぎり取
喰するに苦(にが)くしてすいき物也夫ゟ腹
はり張〆胸痛み酒に酔(よう)たる心地して
有れが中にも眼眩(めくら)み打たをるゝ者も
「左帖」
有りなれ共死する者はなし後に聞く
に此なり物は臼(うす)に入れて搗(つき)つぶし大井
の渕に入るればうろ葛悉く浮きめぐ
るを猟師網を入れて是を取り人間にも
大毒也毒薬変して薬となる少々は
腹に力も出来気分は次第に直りけり
正月始にて来余寒の節なれ共此
所の寒合いは五月頃とぞ覚へけり