翻刻
「右帖」
別所にて喰ける下女は《割書:ヒカラン|ウキン》ユキンの三人も
黒坊の女なり我名を日本と呼ぶ初の程は
物毎に仕形しておしへけるが盆前なれば
閙敷他所ゟも人を雇ふに言葉を知
らさるも不自由なりとて手をとらへ物を
とらへてコンサミヤウ是は何と云チヤウサミヤウ
何をいたせどふ致せと也先此二言を教(をしえ)へ
てゟ其後は言葉も覚へて主人家内
「左帖」
迚も慈悲甚深ふして常に憐をかへ
つかひ給ひけり孫七かたりける様は生前
に六道の流転し有様目前にありと
いへり其故は羽州三国の曲輪にては天
上の遊ひヲなし一夜に五拾年の栄花の
夢を覚し塩屋の沖にては鳴る神稲
妻天地にみち地獄の業風既に舟を
覆んとして泪の留衣類をひたす沖に