翻刻
「右帖」
切られし人は療(りやう)治にかなわず明の日中
に死にけり 下の巻
去程に孫七は思の外の国に来て嬉しい
やら又折々は我古郷の事のみをおもひ出
せば我袖のかわく間こそはなかりける
いや〳〵なげくましくやむまし老少
不定の世の中なれはかゝる事も前世の
約束事とおもひ込しほれぬ亭(てい)して
「左帖」
勤めけり扨又此所に芝居の様成事二
三日始りける此所の仕付け迚女は四拾有余
にならねはかゝる見物にも行く女なし
七歳ゟ女は外を見ず孫七心の内に
おもひけるは我か朝の古郷には三四月
或は八九月頃は芦(あし)屋の浦ゟ勘四郎組
又はらい蔵組或は五十(いが)嵐(あらし)組抔折々参り
けれは老若の女共は踏(ふむ)む所も不覚踊の