翻刻
「右帖」
雇いければ夫ゟ松前の内箱立てといへる
に着き能湊なれば暫く滞留して日和
を待居たり爰に船子の内に長作と云若
者あり出雲にあらぬ結の神に宿の娘に
思ひ恋仮りの恋路と思しに千尋の
海と深ふなり人の異見も波の泡も
て扱ひし旅の空おきんも心浮田屋の舟に
も乗せし離れしと思ふ心ぞ見へに
「左帖」
けり明日わ出船と松前屋思ひ今津の
二人りつれ月をしるべに落ちて行命
をつなぐ縁の綱とは後にそおもひしら
れけり一日二日は詮儀して人を雇うて
尋しかど其行方はしれざりき源蔵が
あへなき最後かゝる不幸不吉ぞと皆
塩たれしもしを草舟をしつらい出に
けり斯而陸奥仙台の内にて小渕 と(と)