翻刻
「右帖」
奥には虎も居る又尾長き猿多し
人小勢なれば命失ふとそ此者は
定而猿に取られしやらんと人云あへり
かゝる手荒き事は目馴れさる事な
れはいとゝ心も静ならざる住居なり
扨又黒坊の官人近国に行き此川下に
船掛りしける時同し川口にマダロスが大船
汐掛りして居たりける人数も五拾人余
「左帖」
乗りけると也黒が船は廿人黒坊工みける
は此マダロスの船は国に寄る者に非ず殊に
余分の銀目を積みければ是をばいとり
殺さんとぞ計(はかり)りけり黒坊マダロスが船に
行て心安く物語して後ち茶酒に毒
夥(をびたゝ)敷入れて持参して是を振廻りけれは
此事を夢にも知らずに大勢集りて是
を残りすくなく呑みけれは忽酔(よ)ひ