翻刻
【右丁】
者(もの)を圧(おし)のきくと称(しよう)する事(こと)。且又 一夜(いちや)づけ等(たう)の名(めう)
目(もく)は。此物(このもの)より出(いで)たる詞(ことば)なるべし。凡 香(かう)の物(もの)は食類(しよくるい)
日用(にちよう)の第一(だいゝち)。千門万戸(せんもんばんこ)暫(しばらく)も欠(かく)べからず。皆(みな)家毎(いへごと)に有(ある)こと
ながら。其(その)仕法(しほう)に依(より)て差別(しやべつ)あり。殊更(ことさら)風味(ふうみ)よきこそ
肝要(かんよう)なれ。茲(こゝ)に刻(きざ)める一巻(いちくわん)は世(よ)に漬物(つけもの)の秘事口訣(ひじくけつ)。
香(かう)の物(もの)の六韜三略(りくとうさんりやく)。塩(しほ)の分量(ぶんりやう)囲(かこ)い方(かた)。是等(これら)の法(ほう)を
用(もち)ひ給へと。手前味噌(てまへみそ)なる端書(はしがき)を。漬物(つけもの)の問丸(といまる)に
田原屋の茶室(ちやしつ)において筆(ふで)を採(とる)。 花笠文京【印 文京】
【左丁】
一 漬物(つけもの)の仕様(しやう)は国々(くに〴〵)所々(ところ〴〵)によりてかわりありといへども
皆(みな)大同小異(だいどうせうい)にして家々(いへ〳〵)に仕来(しきたり)たる分量(ぶんりやう)もあれば只(たゞ)
其(その)あらましをあぐるのみ
一 凡(およそ)漬方(つけかた)に秘事口伝(ひじくでん)もなけれど売物(うりもの)に為(する)と素人(しろうと)
の手(て)に畜(たくわ)ふるとは各(おの〳〵)差別(さべつ)ありて同(おな)じ品(しな)とても
漬塩梅(つけあんばい)の時節(じせつ)に遅速(ちそく)あり度々(たび〳〵)手(て)がけざれば
加減(かげん)の段(だん)は計(はかり)がたし
一 香(かう)の物(もの)は貴賤(きせん)一日(いちにち)も放(はな)るべからずいかなる料理(れうり)に
珍味佳肴(ちんみかかう)ありとも此(この)一品(ひとしな)しばらくも欠(かき)がたし