翻刻
【右丁】
せめ入なん本朝の事家康ましませは心にかゝる所
なしかた〳〵いかにや思ふと仰ある徳川殿御気色損して
利家氏郷にむかひ給ひ日本の大名多き中にかた〳〵
二人撰出されて一方の大将を給らん事弓矢とつての
面目何事かこれに過ん抑家康いやしくも弓馬の
家にむまれ戦のうちに年老ぬ今御大事に及ひて
いかて人々の跡にとゝまつていたつらに本朝を守り候ひ
なん小勢には侍るとも 家康も 軍勢をひきゐて必
一方の先陣を承るへしかた〳〵の御推挙を仰く所に
候と宣ひしに弾正少弼長政すゝみ 出しはらく候
【左丁】
徳川殿殿下此年月の御ふるまひ むかしの御心とや思
しめす年ふる狐の入かはつて候を何事をか宣ふへきと
申しもはてぬに太閤御はかせに 手をかけられやあ
秀吉の心に狐の入かはつたるいはれきつと申せ申し
損しなはしやつくひ打おとしてくれんすとせめかけ〳〵
仰けるに弾正ちつともさはかす長政等かこときは何百人か
首はねられんにも 何条事か候へき 抑此年頃よしなき
軍起て異国のみにあらす本朝にも父をうたせし子を
うたせ兄弟をうしなひ夫にはなれ妻にわかれなけき
苦しむるの天下にみつ又それに兵粮の転漕軍勢の