翻刻
【右丁】
賦役六十余州の内こと〳〵くあれ野となるけふ御発向
あらんには五畿七道の間窃盗 強盗 蜂のことく起て
やすひ所も候まし 徳川殿いかにおもひたまふ共いかでか
これをふせきてうこきなく 御跡をまもりたまふ事
かなふへきこれらの事を おもひてこそ先陣とは
のたまふらめされはむかしの御心ならんにはかほとの
事なと御心つきなかるへきかゝる御心のつきたまふ事
なきは只事にあらす 一定ふる狐の 入かはりたる
候はいやしきものゝ諺に 人とらんとする 鼈は 必す
人にとらるゝとは 此ツ事にて候そと 憚る所なく
【左丁】
申けれは太閤鼈にもせよ狐にもせよおのれ主と頼
たらんものに 雑言をはく条奇怪也と 飛懸らんと
し給ふを利家氏郷おしへたゝり 人々御前に伺公
せり長政か首をはねられんに御手をおろさるゝ
まても候はすそこ居り申せ弾正といはれて長政さあらぬ
体にもてなし人々に色代しておのか陣に帰御使を待て
腹きらんとすかさねて 仰出さるゝ旨もなしかゝる所
に肥後国に逆徒をこりぬと早馬をまいらする
太閤大きにおとろきたまひ徳川殿に御使有て長政
具して御参りあれと仰らるやかて長政めしぐせらる