翻刻
【右丁】
軍に怠りしによつて彼所領没収せられ利長か勲功
の賞として能登国に加賀の能美 江沼二郡そへて下
し給る明れは六年五月十一日利長の養子 犬千代元
服し徳川殿より御家号 給て 従四位侍従兼筑前守
になされ同九月中納言殿の姫君加賀国に下らせ給ふ
七年正月末利長関東に赴き大納言家へ《割書:此時台徳院殿|大納言に転》
《割書:し給ひ|しなり》参られ物を献せし事多けれは賜ひし物又少からす
《割書:利長関東へ参り候へきよしかねて申されしに折ふし大御所関東に|下らせ給ひたり 大納言家利長をむかへたまはんとて 板ばし駅の》
《割書:ほとりに御出ありて見参の事をよろこひ 仰らる利長かねては|かくあるへしとも おもはれす よろこひ おもふ事 浅からす》
《割書:又の日城に上られしに 大納言殿家寝殿に御出ありて利長の|座をはるかの 下にまうけらる 対面の 義ことに 源重に》
【左丁】
《割書:饗応の式 又善つくせり 利長此時は心くやしき事に思はれし|とそ聞えし黄金百枚 白銀千枚 時服 百領を献らる大納言家》
《割書:よりも 鍋藤四郎の 御脇刀に黄金百枚 馬鷹そへて 給る此のち|子息に国ゆつり 引こもり ゐてふたゝひ関東にまいら れす と》
《割書:ふるき人のかたりしか古記にあはせ見るに おほやうたかはす 又古記|人に承る慶長の ころの下文に 大御所と利長と 連署たりしを》
《割書:見きといふされは此度 利長見参の事上下の 分 定まりぬへき|時なれは 大御所のふしみへのほらせたまひし事 ふかき御こゝろ》
《割書:ありぬへし又大納言家の 御ふるまひも いにしへ淮南の黥布か漢の|高祖へ参りし時に事さかしまにして心はひとしかるへきなり》
《割書:天下の英雄駑御の法|千載ともに 一揆也》利長又伏見に趣て 大御所へ参り
やかて国に帰らる同十年二月大納言家御上洛あり
これ大将拝賀の御ため也同し四月の初 利長父子伏見
におもむき大御所へ参りて色々の献物あり両御所
物給ふ事多し利長頓て 帰国し 子息筑前守をは