翻刻
【右丁】
又エサンといふ大山あり其山の下にスカエ河といふ小
河あり水色清く冷にして味ひ甚た酸し渋し此
山上に硫黄明礬多し仍て其岸此河に流れ落る
故なるへし或人の説に石膏蘆眼石も有といへり然
といへとも予未見す尻田といふ村あり此村の山奥に
温泉あり其かたはらに毒水湧出て流る鳥獣等しら
ずして此水を呑て即死すといえり
一 ウルツノ島の北方にチリホイといふ嶋あり此島の岩
の間ゟ湧出る泉有味ひ酒のことく甘き梨子のこと
し此嶋に行たる蝦夷土人此水の濃味なる事を
【左丁】
甘むし其所を去かねて数日滞留し是を飲み満
腹して飽すといへりひたと飲とも無毒にして又
酔事もなし土人是を名付てカモイワツカといふ神水
といふ事なり又赤人も賞翫して甚尊むといへり
普く天下万郡にもかゝる妙泉も又と類ひあるまし
といえり則赤人是を尊信してキスロヲタと名付
く日本の養老水といふの義かともしれす余此地に
らされは委敷しらす其水の味ひと匂ひとを尋るに
蝦夷地に樺といふ木あり此樹を生木のまゝ皮へ
横に切疵を附れは即漆のことく脳水出るを取て