翻刻
【右丁】
と凝り塊まりたる片意地を頗解させしたる社#1思ひやられ
たり都て蝦夷の器物には酒宴にのみ用ひ外には用
ゆへきに其品なく未た人主の開けされは器財を入
る事なし
氷海の事
天明六丙午三月中旬にクナシリ島の内イシヨヤといふ
所に吾着船して小屋を懸け野宿せしか其夜丑寅
の風烈敷吹けれは水主の蝦夷人とも言けるは海上真
白に見へて気悪しと言けれ共何の故かもしらす其
日は暮て翌朝に海上を見れは遠沖より一面に
【左丁】
氷の山となりたり其氷の厚さ五六間乃至十余間或は
ニ三十間計りも有て海上の水面より五六尺余も高く
浮上り水下には何ほと厚く氷りたるか誠に堅氷山
となりたり此氷皆北海より吹寄て大海更に波浪
なし仍て通船する事能はされは無拠滞留せり土
地の蝦夷とも氷より氷に飛勝りて遥に沖にて海鼠
あさらし等を活捕事夥し堅氷追而漸々解散に
赴く頃海猟を止て山猟に深山へ行て赤熊の栖を
見付けれは主人イコトイをウタシ《割書:家来|の事》に下知して
赤熊を射留たり皮を剥き肉を取り胆をとり骨は