翻刻
【右丁】
捨て悉く料理荷物に作りてウタシに負せ扨又彼
跡に予赤熊三疋居たるを生捕て主従大勢深山
より浜辺に降りける時に其体は彼親熊の肉と
皮とを分けて背負ひ生捕の子熊三疋を率つれ
蝦夷の例にて野宿小屋の遥に向より声を張り
コゴキセとて哺々と〻といひなから呼ひ悦ひ勇んて帰り
来るなりコゴキセの声高く聞へしかは蝦夷女にも迎
に出携物の熊を見て野宿の仮小屋に傍に窓をひ
らき其赤熊の首皮を尊信して此窓より入て上
座に安置して後に我耳環をはづして彼赤熊の
【左丁】
耳にかけ太刀を首皮の真向に飾りていかにも恭敬
尊敬して崇ふる蝦夷土地の定例なり其故は熊は
霊獣なれば魂魄化して蝦夷土人となる故也といへり
鹿肉魚肉等の供物をして高貴の人に対するか如
くにて恭敷再拝して其後其熊の肉を又供物に
する也其ゆへを尋るに魂魄は残る物皮肉は仮の物
なれは心と骸とは別なる物なりといへり此定例済て
眷属の蝦夷人とも打集り肉を煮たり焼たり生
にても喰ふ熊の肉を食するには礼式あり鹿肉狐
肉等を喰ふとは大に別也といへり此振舞終りて