翻刻
【右丁頭書】
用ゆべしかまぼこと煮合(にあは)せて平に
したるもよし
○芹(せり) 芹やきとて醬油(しやうゆ)汁に
ていりたるよろし豆腐(とうふ)汁に刻(きざ)み
て入たるもよし煮かげんの大事
なる物なり香(か)をうしなはぬほどに
すべき也/鳥獣(とりけもの)の肉(み)に入てあしき
香をさる塩くじらと煮あはせ
たるはばん菜によろし生魚(なまうを)にいれ
たるは下品なり根芹とて横(よこ)に
はひたる小(ちひさ)きが味(あぢ)よしひたし物も
上品なるもの也
◦生魚(なまうを)の類
海川の魚種類甚多けれど
こゝに挙るものは唯その價賎
くして日用に得易き物ばかり
を出す故に鯛鰆魲の類を
ばはぶく又国々にて魚の類も
大にかはりあるものなれば一概
にはいひがたし
【左丁頭書】
○鮪(しび) 東国にて真黒といひ
西国にて大魚といひ上方にては
はつの身といふ下品なり作り身に
してはおろし大根の醬油にさし
又塩やきにしておろし醬油をかく
るもよし塩をしたるは糟いりにして
よし江戸にては葱に合せ煮て
ねぎまぐといふ下等也作り身を
酢にひたし引上てきらずのいり
たるにまぶすも江戸風也いさゝか
よし此魚尤下等なる物なれども
味ひよき故はん菜には妙なり
○赤えひ 上方にはえとのみいふ
下品の魚也汁はねぶか茄子など入
てよし吸口柚山椒など香気つよき
ものよしいり付は山しやう醤油に
かぎりたり生身はからし酢みそ也
【右丁本文】
一/稲(いね) 稲は百穀(ひやくこく)の長(ちやう)として人命(にんめい)の繋(かゝ)る処此上
の宝(たから)なき事皆人のよく知(し)る所なれば今更(いまさら)にいふべき
にもあらず古(いにしへ)は神明(しんめい)【左ルビ:カミ】を祭(まつ)りて忌慎(いみつゝし)みて種子(たね)を
下(くだ)し苅(かり)たる初穂(はつほ)をも先(まづ)神明に奉りて其/恩恵(めぐみ)を
歓(よろこ)びたるさま古書(こしよ)に詳(つまびらか)なり近世(ちかきよ)此事/漸(やう〳〵)粗(そ)なるは
歎(なげか)しき事なり作(つく)りやうの事はこゝに略(りやく)す
一/畠稲(はたけいね) 又/旱稲(ひてりいね)ともいふ湿地(しつち)の畠にうゑてよく
熟(じゆく)す粳米(うるしね)糯米(もちこめ)ともにあり土地(とち)によりて植(うゑ)て
甚/利潤(りじゆん)あるべき物也作りやうは大かた麦(むぎ)の如く
すべし冬(ふゆ)より地をよく和(やは)らげおきて二月半よ
り後に籾(もみ)を水に浸(ひた)して三日の後(のち)取あげ日にあて
少し口(くち)のひらく比に灰(はひ)ごえを用ひ横筋(よこすぢ)を深(ふか)く
きりて麦のごとくまく也地かわきたらは薄(うす)き水
【左丁本文】
【挿絵】
こえをそゝぎて土(つち)をおほふべし苗(なへ)七八寸なる時
こまかに耕(たがへ)したる地(ち)にがんぎをふかくきり灰ごえ
にて三四本づゝ植(うゆ)べし強(しひ)てつよき肥(こやし)などはよ
ろしからず却(かへつ)て虫気(むしけ)つくもの也
一/麦(むぎ) 米につぎて人命(にんめい)を司(つかさど)るものなれば尤(もつとも )尊(たつと)
むべし作(つく)りやうはこゝに略(りやく)す
【枠外丁数】百二十丁