翻刻
【右丁頭書】
右にあぐるものは誰(たれ)も知たる事
にて珍(めづ)らしからぬ事なれども
片山里(かたやまざと)などにては時として日々(にち〳〵)
のばん菜(ざい)にも思ひ付のなきこと
あるものなればとてあら〳〵
その仕方(しかた)を挙(あげ)たる也されど又
臨時(りんじ)の客(きやく)などあらんをりの心
得にもとて一汁(いちじう)一菜(いつさい)の料理(れうり)
年中(ねんぢう)の事どもを左(さ)に出すさ
れど是またあながちに拘(かゝは)り
なづむべからず是を見て思(おも)
ひ付(つき)有合(ありあは)せたる物にて手がろく
気転(きてん)よくして早(はや)く間(ま)にあふ
を専(もは)らとすべしすべて素人(しろうと)の
料理(れうり)献立(こんだて)は念(ねん)の入/過(すぎ)て手
もとのおそきはわろきもの也/早(はや)く
間(ま)にあひてきれいなるをよしとすべし
【左丁頭書】
【項目枠】
正月 同 同
煮物(にもの) なます皿(さら) 汁(しる)
【一列目枠】
白うを 鯛うす 小かぶら
うど づくり つみ入
たんざく きくらげ
玉子とぢ せん
にして 大こん 赤がひも
浅草のり くり よし
せうが
【二列目枠】
鴨(かも) なまこ ねいも
ねぎ おろし うど
みさん椒(せう) 大根
或は 茗荷(みやうが) 又
千/牛蒡(ごばう) たけ かまぼこ
もよし 生姜(しやうが)
【三列目枠】
まてがひ きすご 白うを
くわゐ 赤がひ わかな
つく〴〵し めうど 又あゆご
或は ばうふう ほうれん
あはび せうが 草
わかな
こしやう
【四列目枠】
はんぺい いかせん やきどうふ
みつば 大根たん さいのめ
に椎たけ ざく
おとし玉子 木くらげ はらゝご
木のめ うど 或は
又 せうが ほしこ
かまほこにても しそ
【右丁本文】
仏掌藷(つぐいも)は四月比切て灰をつけ山地(やまぢ)の畑(はた)を四五
寸(すん)ほり土をよくこなし竹(たけ)の葉(は)を多くまぜてうゑ
おき蔓(つる)出て後/人糞(にんふん)を入べし
一/甘藷(さつまいも) 砂地(すなぢ)にて作るもの味(あぢ)よし多くは海島(かいたう)よ
り出すなり暖地(だんち)ならざれば生(はえ)がたし四月うゑて
後/蔓(つる)一二尺になればまげて地(ち)へふせ土をかくれば
節(ふし)より根(ね)を生ずる也かくのごとく度々してよし
此物/肥(こやし)を用ひずして尤/得益(とくえき)あるもの也
一/瓜(うり) 白瓜(しろうり)胡瓜(きうり)甘瓜(あまうり)【左ルビ まくは】醬瓜(まるづけ)など種々(しゆ〳〵)あり大抵(たいてい)
三四月/種(たね)をまき一寸ほどの時/畑(はた)へうゑ垣(かき)を結(ゆひ)て
はひかゝらする也/甘瓜(あまうり)などは麦(むき)わらを敷(しき)てははせ
おくよしどふの泥(とろ)に人糞(にんふん)をまぜそゝぐべし一尺
ほどになり蔓(つる)出ればしんのさきをとめてよし
【左丁本文】
又/干鰮(ほしか)を粉(こ)にして砂(すな)にまぜ根廻(ねまは)りに入るもよし
種(たね)をたくはへおくには冬より熱(あつ)き牛糞(うしのふん)にまぜ
置き凍(こほ)らせて後少しめりある日陰(ひかげ)におけば蒔
て後(のち)大に栄(さか)ゆるものなり
一/冬瓜(とうくわ)【左ルビ かもうり】 灰(はい)に小便(せうべん)をうちて泥(どろ)にかきまぜ地に厚(あつ)く
【挿絵】
【枠外丁数】百廿八