翻刻
【右丁頭書】
菓子(くわし)の製(こしら)へやう【枠囲】
飲食(いんしよく)の事のついでに菓子(くわし)
の製法(せいほう)をいさゝかこゝに抄出(せうしゆつ)
すこれ亦(また)近来(きんらい)はさま〳〵の新(しん)
製(せい)いできて価(あたひ)貴(たつと)き物もあ
れど畢竟(ひつきよう)は奢侈(おごり)のたねと
なるべき事なれば強(しひ)ても出
さず唯(たゞ)昔(むかし)より有来(ありきた)りたる
やうの物ばかりを挙(あぐ)るなり
○かすていら 玉子(たまご)丸(まる)にて百目
皮をさり麦(むぎ)の粉(こ)百目入すり鉢(ばち)
にてよくすり白砂糖(しろさたう)を竹(たけ)の
とほしにてふるひて百十五匁入れ
よくすりて火鉢(ひばち)に火をして
四隅(よすみ)に火をいけさて焼(やき)なべに
よきほどの板篗(いたわく)をつくりて其(その)
【左丁頭書】
内へ厚紙(あつがみ)を箱(はこ)にして敷(しき)右の
玉子をながし右の火にかけ上に
渋紙(しぶかみ)のふたをしてしばらく置
ばなべの内へあたゝまり入る其時
火蓋(ひぶた)にかろき火をして真中(まんなか)を
すかしぐるりに火を置(おき)火ぶた
をしてやく右の火気(くわき)まはれば
段々かすていら浮上(うきあが)り色(いろ)づく
時竹をほそくわり所々(ところ〴〵)へさし
こみかげんを見やけとほりたる時
は右の竹にあぶらけなくなる其時(そのとき)
鍋ともにさまし勝手(かつて)に切る也
火かげん上下共に和(やは)らかなるよし
○みそ松風(まつかぜ) うる米(ごめ)の粉(こ)一升
餅米(もちごめ)の粉(こ)四合/白砂糖(しろさたう)三百目
ふるひ入れ山椒(さんしやう)の粉(こ)二拾匁/味噌(みそ)
のたまり百目いれ団子(だんご)のかたさ
【右丁本文】
水にてあらひ落(おと)しよく乾(かわか)して後右の寒水(かんのみづ)
につけおくべし但(たゞし)壺(つぼ)に入てよし如此(かくのごとく)すれば
水を替(かふ)る事なくして久しく味(あぢ)損(そん)ぜず
○霜柿(つるしがき)を貯ふる法
一/美濃(みの)つるしを久しく貯ふるには葉茶壺(はちやつぼ)
の底(そこ)に柿(かき)を並(なら)べ其上に葉茶(はぢや)をいれ置べし
其(その)茶(ちや)も又久しく味(あぢ)かはらぬ也
○万年浅漬(まんねんあさづけ)の方
一/大根(だいこん)《割書:百本|》塩(しほ)《割書:三升|》麹(かうじ)《割書:二升|》砂(すな)《割書:一升|》砂(すな)は川
砂の清(きよ)き米粒(こめつぶ)ほどなるがよし常(つね)のごとくに
漬(つけ)ておもしを置べし四月より夏(なつ)の中(うち)用
ひて味(あぢ)かはらず
○栗子(くりのみ)のたくはへ様一方
【左丁本文】
一/寒水(かんのみづ)にひたし置いつまでも水をかへず
漬(つけ)おき入用次第つかふべし芽(め)を出さずまた
腐(くさ)ることなし又方/赤銅(あかゞね)の薬鑵(やくわん)にいれ蓋(ふた)
をよく〳〵してつりおくべし
○蕃椒(たうがらし)のたくはへやう
一たうがらしを塩漬(しほづけ)にしてたくはへおけば
いつまでも生(しやう)にてたもち生(なま)のごとく風味(ふうみ)も
かはらず但(たゞし)青(あを)きうちに漬(つく)べし
○紅生姜(べにはじかみ)のつけやう
一はじかみをあらひて水気(みづけ)をさりて後
梅酢(むめず)に漬(つく)る也其時/芥子(からし)を少し絹(きぬ)につゝみ
て底(そこ)に入おくべし年(とし)を越(こえ)てもかびずして
色(いろ)よし又方/米醋(こめす)一合/黒豆(くろまめ)半合をせんじ
【枠外丁数】百四十六