翻刻
【右丁頭書】
省(はぶ)けるは質朴(しつぼく)の風(ふう)を変(へん)せずして
倹素(けんそ)長久(ちやうきう)ならしめんとてなり
然(しか)れども又/便利(べんり)につきては当世(たうせい)
にしては止(やむ)べからざる物をも出して
市(いち)に買(か)ひ遠(とほ)きに求(もと)むる費(つひえ)を略(はぶ)
かんとす
◦野菜(やさい)の類
○若菜(わかな) からしを吸口(すひくち)にして
汁(しる)にし或(あるひ)は塩鯨(しほくじら)油(あぶら)あげなどに合せ
て平(ひら)にして用ゆ雑煮(ざふに)の上(あは)おきに
殊(こと)によろしゆでゝからしあへにし
又はごまをふりてひたし物にもよし
○水菜(みづな) 汁にしてからし柚(ゆ)など
吸口(すひくち)に入てよしかつをゝかけ身鯨(みぐじら)
を入て平(ひら)に用ゆ油(あぶら)あけもよし
ひたし物にはごまからしなどかけてよし
又/浅漬(あさづけ)にしてはぎれよく上品(じやうひん)なり
【左丁頭書】
○嫁菜( よめな) ひたし物にしてよし
汁(しる)は芽(め)うどの吸口(すひくち)なとにてよろし
上品なる味(あぢは)ひあり
○蒲公英(たんほゝ) ゆでゝあくを出し
ひたし物にしてよし干大根(ほしだいこん)の薄(うす)く
へぎたるを入て酢醬油(すしやうゆ)をかけて
用ゆ土筆(つく〴〵し)を入たるもよし
○とう菜(な) 花(はな)の咲(さき)かけたる
菜(な)の事なり当分漬(たうぶんづけ)にしてよし
からしあへにしてもよろし但(たゞ)し積気(しやくき)
ある人/多(おほ)くくらへば殊外にあたる
なり用捨(ようしや)すべし
○ちさ 此(この)菜(さい)殊(こと)に長(なが)くありて
大に重宝(ちやうほう)なる物なりからし唐(たう)がら
しなど吸口(すひくち)にして汁(しる)にするよし又
ゆでゝひたし物にし或は魚肉(ぎににく)【注】にまぜ
てなますにも用ゆ煮(に)て平(ひら)にし
【注 振り仮名は「ぎよにく」の誤ヵ】
【右丁本文】
便(べん)よろし干鰯(ほしか)は砕(くだ)き粉(こ)にして水にいれくさ
らして用るよしいたむ草木(さうもく)に用て大によろし
魚(うを)の料理(れうり)のあらひ汁(しる)を五六日ため置てかくる
もよし乾(かわ)きたる地には米泔水(しろみづ)あらひ汁/水肥(みづごえ)な
ど殊(こと)によろし干鰯(ほしか)油糟(あふらかす)等のつよき肥(こやし)は石砂(いしすな)
多(おほ)く乾(かわ)きたるには悪(わろ)し植物(うゑもの)もえて枯(かる)る事
ありすべて肥(こえ)たる地(ち)には多く肥(こやし)を入ては却(かへつ)て
わろし能々(よく〳〵)心得(こゝろえ)おくべし灰(はひ)は人糞(にんふん)にあはせ
ねさせ置て瓜(うり)茄子(なすび)麦(むぎ)粟(あは)黍(きび)稗(ひえ)等(とう)のこやしに
用ゆ酒糟(さけのかす)は籾糠(もみぬか)に切(きり)まぜ丸(まる)めて貯(たくは)へ置水にとき
て人糞(にんふん)にあはせ水田(みづた)に入てよし蔓草(つるくさ)などに用ひ
てよく繁茂(はんも)す油糟(あぶらかす)は草木の葉(は)の光沢(つや)を出し
てよろし秋冬(あきふゆ)用ゆべし馬糞(ばふん)は寒(かん)にいたむ物に
【左丁本文】
よろし暑気(しよき)を厭(いと)ふ物にも根廻(ねまは)りに入べし馬(むまの)
尿(せうべん)は少(すこ)しづ ゝ諸草(しよさう)に用ゆよくきく物なり獣(けものゝ)
肉(にく)の類は菓物(なるもの)の根廻(ねまは)りに用ひてよし此外/鳥(とりの)
類の糞(ふん)諸穀(しよこく)の粃糠(ぬか)などいづれも少しづゝ差別(しやべつ)
あり心して用ふべし
○接木(つぎき)の事
接砧(つぎだい)の木は三四/歳(さい)より六七/歳(さい)までの木よろし
勢(いきほ)ひよくこせぬ木を撰(えら)びて接(つぐ)べし大木へつぐ
時は枝(えだ)の勢(いきほ)ひよき所を残(のこ)し外の枝(えだ)は皆(みな)截(きり)すて
その残したる枝へつぐ也又/砧樹(たいき)を抜(ぬき)てつぐときは
長(なが)き根(ね)を切( きる)がよし接梢(つぎほ)は去年(きよねん)のびたるを今年(ことし)
つぐ也勢ひよくのびたるを切べしよわき木は
接梢(つぎほ)の枯(かれ)ぬやうに藁(わら)にてかこひ風(かぜ)のあたらぬ様(やう)に
【枠外丁数】百十三