翻刻
【右丁頭書】
○春菊(しゆんきく) 香気(かうき)ありて上品也
汁は吸口(すひくち)なくてもよしひたしもの
ごま醬油(しやうゆ)通例(つうれい)なり冬(ふゆ)のころ鳥(てう)
獣(じう)の肉(にく)にあしらひて悪臭(あしきか)をけし
はなはだ雅味(がみ)あり平(ひら)にしてもよし
○夏葱(なつねぶか) 冬(ふゆ)の葱(ねぶか)と同しけれども
夏はいさゝか風味(ふうみ)劣(おと)りて下品也
汁に入てよし酢(す)みそにて酒の肴(さかな)
にするもよし
○茄子(なすび) あつく切て赤(あか)えひに
あはせ赤(あか)みその汁にするよし或は鴫(しぎ)
やきとて油(あぶら)を引て砂糖(さたう)みそのでん
がくにするも通例(つうれい)なり汁にしては
からし唐(たう)がらしごまなどの吸口(すひくち)よし
風呂(ふろ)ふきあんかけもよし油煮(あぶらに)は
大根(だいこん)おろしをかけてくふなり又
ゆでゝ白(しら)あへごまあへにしても酢(す)みそ
【左丁頭書】
あへにしたるもよし又きざみて
ざつとゆでひたし物にするもよし
灰(はひ)にほり埋(うづ)みて焼(やき)たるは此物(このもの)第一
の味(あぢ)なれども客前(きやくまへ)へは出しがたき
か此外/色々(いろ〳〵)つかひ方/多(おほ)く殊(こと)に
香物(かうもの)にして風韻(ふうゐん)あるもの也
○胡瓜(きうり) はもの皮(かは)鱠(なます)にして
大によし紫蘇漬(しそづけ)もみうり
などもよし油(あぶら)にて揚(あげ)たるも随(ずゐ)
分(ぶん)珍(めづら)ら【「ら」ふりがなと重複】しはしりの内は殊(こと)に
賞翫(しやうくわん)してものゝあしらひにつかふ也
○越瓜(しろうり) なます胡瓜(きうり)に同じ
煮(に)て平(ひら)にすれども冬瓜(かもうり)には劣(おと)れり
奈良漬(ならづけ)の香物(かうもの)を第一とすべし
○冬瓜(かもうり) うすく細(ほそ)く切(きり)て汁(しる)とし
すりごまからしなどの吸口(すひくち)よし平(ひら)には
風呂(ふろ)ふきうす葛(くず)いりのつぺいよし
【右丁本文】
または砧木(だいき)を上へつりて動(うご)かぬやうに結付(ゆひつけ)置
てもつぐ也/包(つゝ)みたる根(ね)には毎日(まいにち)水(みづ)をそゝぎて
枯(かれ)ぬやうにすべし右いづれも梢(ほ)を切(きり)はなすは
親木(おやき)の枝(えだ)へ砧(だい)より勢気(せいき)かよひてよく生(おひ)つき
たるをうかゞひて先(まづ)ほの元(もと)を半分(はんぶん)ほど切又/数日(すじつ)
たちて後/残(のこ)る半分(はんぶん)を切はなすべしされども
物(もの)によりてよく付たるは一度に切はなしても
よしまた松(まつ)桃(もゝ)の類(るい)和(やは)らかにて脂(やに)ある木をば
劈接(わりつぎ)にすべしこれは梢(ほ)も砧(だい)と同じほどの太(ふと)さ
にてもよし砧(だい)の切口の正中(まんなか)を少し割(わり)て両方
をけづり【図 上部がM形の切口】かくのごとくにしてほの方をば
【図 下部がV形の切口】かくのごとく両方(りやうはう)をそぎ砧(だい)へはさみて
巻付(まきつく)るなり牡丹(ぼたん)などはそぎ接(つぎ)とて砧(だい)もほも
【左丁本文】
同(おな)じくはすにそぎ合せてまき其上へ割竹(わりたけ)を
竪(たて)にそへ其をを又うごかぬやうに巻(まき)接(つぎ)めまで
土をかけて植(うゝ)るなり又/根(ね)を砧(だい)としてつぐ法あ
りこれは植木屋(うゑきや)などに鉢植(はちうゑ)をこしらゆる術(じゆつ)也
砧(だい)にする木根(きのね)を掘(ほり)其根(そのね)の勢(いきほ)ひよく皮(かは)のきれい
なる所より切取(きりとり)てこれを砧(だい)のごとくにして
土中(とちう)の水気(すゐき)を暫(しばら)く乾(かわか)してつぐべし大木(たいぼく)一株(ひとかぶ)
をほれば砧(だい)数(す)十本を得る故に此法(このほう)尤(もつとも)多(おほ)く
接出(つぎいだ)すによろし
○剌木(さしき)の仕やう
扦挿(さしき)は木によりて二三月さすものあり九十月
さすものあり其中(そのうち)梅雨(つゆ)のうちにさす物おほし
雨の中にはよく生(はえ)つく物なれば也それも朝(あさ)の内に
【「剌木」は「刺木」の誤ヵ】
【枠外丁数】百十六丁