翻刻
しつまらす誠に万死をのかるゝ心ちすれは尤/快(コヽロヨシ)し
其内硯を取出し/柱(ハシラ)/船張(フナハリ)/梶(カヂ)なとに国所我名を書付
扨/麻物(マモノ)取出し二番/碇(イカリ)にさして/下碇(サゲイカリ)にする是は船たとひ
何国の浦へ寄ても子細なきしたゝめなり扨橋舟に
少々積入各乗うつり波間を分て/漕退(コキノク)る無念といふ
も余り有四方に山はなけれ共只南部地を心懸/磁(ジ)
/石(シヤク)を力に漕程に同七日の晩景にしつかりと云浦の
誠に恐ろしけなる岩間にそ着にける其道の程は
何様四十里もあるらん其まゝ水主等ハ岩の上にあかり
扨も〳〵今度ハ不思議の命助り二度土を踏事よ
是只事に非す/頃間(コノコロ)頼をかけたる天照皇太神宮
の御和生そと友どちか互に手を取組て悦ふ事
限りなし我は又引かへて人にうきを問れん事の
口惜や翌日八日風/変(カハ)り北風いかにも/霽天(セイテン)なり扨々
かかる日和のあるに扨此間の悪風は何事そや是も
前世の因果ならん今はすへきやうもなし/汝等(ナンチラ)は此橋
舟にて亦大畑へ行宿を頼て米をかり切れたる碇
ともさがして暫まち我はまた此風はあひの風