翻刻
なれは船もし此辺の浜へも寄るやとかしこき水主一人
めしつれて浦を伝ひ山をこし風の吹行方へそ通り
ける白ぬかと云所にて船の事問にしらすと云それより
岩のへつりをして行に上へなる嶮岨に猿共多集り
居て友に/戯(タハフ)れ思ふ事なきにあうひといふれし
あら浦山しの猿ともや扨も日頃ハ浅ましき畜生そと
思ひしに今の我身の/懶(モノウ)さに何の猿か身にもなりたや
なとゝはかなき事共思ひけるいさや我等も是なる峯
に上りて少休まんと遥々上りて/東(ヒカシ)を見れは彼舟と
覚へて/幽(カスカ)の沖に波間を分て流行其内供の水主にあれ
見よ我船比の風にちかく寄候は何さま此辺の浜へ
着へき也たとへいつくの寄たり共其所にて船道具
/結(ムス)ひて夫より仙台へ行て中物思ふまゝに売へし然れは
をのれににも重き恩をあたふへしと念頃に語りて
彼船を目にかけ/弓杖(ユンツエ)二つゑ三枝計をとり上りてゆく
程に泊村の前にては其間今二里には不過やかて其浦
の名主は弥右衛門と云者の方に行有増を語てあの船
此湊へ引付るならは金子五十両相渡すへしさらすは