翻刻
只船と共に死を共にすへしと云て其まゝ泪くみたり水主
等何かしか体をみて誠にの給ふことく/縦(タトヒ)命有て上り
たりとも主人を捨ては人に面目有まし我等も主と共
に死なんと云て思ひきるもあり又年寄たる者ともは
いや〳〵命こそ物種よ死たる計か高名かや船頭殿計
てもなし花のやうなる/弟(ヲトヽ)達迄/殺(コロ)し給はん事は何事
そや命たにあらは亦是ほとの船なと成ましき事にも
あらす船頭殿若き故に事の外なる無分別かなと云て
又一所に集りて泣居たり其時何某思ふやうは誠に
/奴等(ヤツハラ)かいふ如く/責(セメ)て一人に/皈(キ)するとは唯我計の/咎(トガ)に依て
今此害にあへり亦何某か思案にて/咎(トガ)もなき者共
をは殺さん事も不便なり其上若き弟共を失ひなは
親達の恨にて/三途(サンヅ)の/苦患(クゲン)も/遁(ノカ)れ難し兎角此
上は我も上らはやと思ふ心そつきにけるいかに面々よ然らは
各か/異見(イケン)にまかせ我も一所に上るへきそさらは橋舟を
/拵(コシラ)へかい場きれといへは二十余人か生上りやれ/先櫓(マツロ)を打
切てともかいにすけかいはた打もきたなに立よくゝりを
切てかい縄にせよ其/山刀(ナタ)/鐇(マサカリ)/鑿(ノミ)/釿(テヲノ)と/暫(シハラク)は鳴くも