翻刻
中物渡すそと堅く約して猟舟七艘に食酒なと
積入六月十日の巳之刻に一度にとつと押出し彼舟を
目にかけて只一時にと押す程に今一里にもたらさる
にいかなる神のとかめにや今迄晴天に有ける気色の
俄に替りて空かき曇り西風砂を立て吹出す
猟舟の者共いひけるはあら笑止や是は此所の/出(タ)し
風なり此らにてはあの船を引事は扨置我々共に危し
兎角ならなひといふ程こそ有けれ/櫓櫂梶(ロ カイカヂ)を立直し
もとの湊へ漕戻るさなから夢の心地して汀へ上り只
茫然とあきれたり兎角するうちに彼船もはや見えす
成にけり今は力なし仏神にも放されぬる上は今はゝや
思ひきり是より大畑へ戻りて水主諸共に急き国に
のほり親子あひせめてハうきを語らふ迄とおもひ
すまして其夜はそこにそ留りける翌日供の水主かいふ
やう誠にの給ふことく今ははや運尽弓の力もをれ
やる方もなき事なれとあまり本意なき事なるに
今一両日は/慕(シタ)ひ給へかし路次の難儀は私よきにいた
はり申さむといふさては/己(オノレ)も/左(サ)おもふかやしからは