翻刻
去によつて朝見すと云也是そむかしの咄そよ今此御世にいかて
左様成事其通にしてをくべいな煙草ふけとそ語りける中〳〵
にとふてつらさの朝みすや二三の戸を打過て跡ふり帰り
詠むれは今は爰まて/来田(キタ)市や行先ハ福岡と聞に付ても
一の戸夢にもしらぬ山崎をは日暮て独雪の下袖打払ふ小笹
原を分て出るそ懶うけれ高ねの雲も山つたひおりつのほり
つ行程に沢辺に見ゆるぬまくなひ南に大山見えたり道行
人に尋るに是社/岩合(イワアヒ)山よされはむかしの西行も/奥(ヲク)の富士と
は是を岩合と詠められしそいや是は面白し我も何とかいふへ
きと暫くたたすみて「旅衣今きて山をみちのくの富士と
よまんも心あらはや山たに名はかりすきの宿をすくれは是は
はや国に聞えし盛岡也されは此所は古へ秀平の末子
つづめの五郎か居城とかや今は又南部殿十万石の所也
扨山城にて山下には大河/■(カン)々として岸をひたし塀櫓
の立やう千万軒の町屋共誠に賑ふしるしにはいかなる家の
二階にも幾世ふる共尽すましめくれやめられ盃の手に
ふれかさに舞の袖千秋万歳と/唄(ウタ)ふ声旅寝の床に夢
覚てまた立出て行ほとに秋も半の事なるに四方の梢も