翻刻
侍らす先南の山を見給へ巌石峩々としそひへ所々に
かまへのみゆるこそ平泉にて侍ふ東は高館柳の御所
山につゝきし泉の城北の大河はきたかみよ衣川と蜘手
に落合流水岸を打て旅人の眠をさます心気
はらしの思出に猶も委しく聞度は平泉へ上り給へ
秀衡の/光(ヒカリ)堂其外の事共を寺にて尋聞給へみつ
からも寺中あたりの者也と/艶(ヤサ)しくそ語りける扨社其
光堂みはやと云て遥々上り寺にて案内かうてたつ御
房出合そも是ハいつくの人そされは某は加賀の国の
者なるか始て此所を通る也光堂を拝みたしといふ其時
御房のいへるは其年も/廿五(ツヾイツヽ)にはよも過し志殊勝也是へと
いふて様々に社/持賞(モテナシ)其後墨衣に/袈裟(ケサ)取て打懸我を伴ひ
堂にゆく扉を押開き是社は彼秀衡入道の有しむかし
のしるしなれ誠に有難や見馴ぬ金色の光堂の其中に七宝
荘厳の巻柱扨入道の面影を木像に造り朝夕つとめ
の気色なり其時我も手を合懐中より心経を取出して読誦
す然るに御坊堂のうちより様々宝を取出し是そむかしの
判官殿御自害の刀七寸五分のこんねんとう又秀衡の脇指は