翻刻
眷属等是をみて鼻をふたき耳を引出家を中に取籠
て笑ひしも角やと思ふ余りすさましさに主に其ゆへを
問ふに亭主いひけるはいやとよ御身のやうなる見馴ぬ人を
めつらしく思ひ角するそよ少も気遣なしといふ子共に
たはふれ余程休みたりそれより行に子共半里計の迷ひ
道を送り名残をしけに帰りける夢にもしらぬみち
此辺の草葉の虫の音たかく誰を松むしきり〳〵す
をとする鹿の妻こひに偕老の契りささめことかたる
其夜を松嶋の御寺に社ハ着にける先心静にふし拝み
扨御堂の内を/見廻(ミマハ)すに聞しにまさりて夥し/廻廊(クハイロウ)
/庫裏(クリ)拝殿十八間の長廊下皆金銀を尽し中にも
本堂は/黄金(コカネ)の柱を立並人瑪瑙の行桁瑠璃の梁
玉の扉は鮮に庭には金銀の砂を敷四方の門辺の
玉の戸を出入人まて光りをかさす粧ひは誠や名に
聞し寂光の浄土共いふへきかそれよりも杉林に入て
みれは岩組の木影をきよめや替りの小石共の角を
並へて所々にしき其/奇麗(キレイ)言語にものへかたし爰に
坊主等数十人集り居て我をとかむいや是は上方の