翻刻
下り海士人を頼み鳥目六十文に小船をかり打乗ておし出す
ああ面白の海つらや詠めも多き其中に嶋の小松の若
みとり波のうね〳〵/生(ヲイ)さかり魚木にのほる釣舟の西
に入日と諸共に賎か/苫(トマ)やにかへるさは遠浦の帰帆もかく
やらん洲渚を分て漕ほとに笠に木の葉のはら〳〵とふる
時は是そ誠に瀟湘の夜の雨の類ひかや松嶋寺の入相も
寂滅為楽となる時は遠寺の鐘の思ひなり詠め〳〵と
行道の南の山の磯際に/翅(ツハサ)を双ふる鳫金の立さはき
たる有様は平沙の落雁是ならん東にみゆる大山に
夕日のかゝやくは高山の夕照ともいふへきか爰に松生茂り
て枝を/並(ナラ)へし其中に雛鶴の声しけく/巌(イハホ)の/肩(カタ)による
亀の千世万年共いふへき程の嶋の今当代に名を取し
探幽と申とも筆捨なんと思ふ計にみえたりいかに船人
此嶋に名のあるや船人いひけるは是社常にうとふ鳥の
かよふ故にうとふ嶋といへり其時老松の切を思ひ
出し/舷(フナハタ)をたゝき声を上松竹鶴亀の齢を授る
此君の行末守れとうとふ鳥の声も遥に聞えつゝ
塩釜にこそ着にける船より上り先六社の大明神へ参り