翻刻
生物語なとして夜更て寝る朝にいとま申て塩竃を
たつ白す峠に打上り東をみるに満々たる田は中〳〵幾
十里共しらす北の海には江戸廻り岩木相馬の船ともか
順風に帆を上たり西は/金菓山(キンクハサン)石の/巻(マキ)けせんの
山を引廻し南は仙台城かまへ大名町やのむねまても
実あり〳〵と見えたりそろ〳〵ゆけは仙台につく先/外(ソト)川に
行て御城構をみるに其大き成事たとへていふへき方も
なし諸大名の屋形共は皆大杉なとに/土手(トテ)かまへされは此
国主は当代にも其肩を並ふる人もなし誠に六十五万石
は替らぬ民のかまと迄/賑(ニキハ)ふ煙たへもせす数万軒の
町屋共皆/瓦葺(カハラフキ)や白土赤壁惣二階呉服町とうちみえて
金/襴綾段子(キンラントンス)の巻物を山のことく積上て何か御用といふ
体は花の都と申す共是にはいかてまさるへきさて
寺々の多き事言葉にもいひ難し爰やかしこと廻る程
に秋の日のかなしさははや申のさかりに成けるいさ宿から
んとはたこ屋町へ行てかるに思ひの外かさす爰やかし
ことするうちにはや黄昏時になる側なる菓子屋へ入て
餅なと食てやとかさぬやうを問ふに主かいふ様されは此所