翻刻
木々の梢をならすたにすはや胸をさはかして名所を難
儀に奥州の夢にもしらぬ道野辺を急けは末の宿に
つく爰にも辻番共か我をみて棒をならし熊手取
て大きにとかむ是は南部より江戸へ行か道を急く故に
夜をこめて通る也然れとも今は草臥たり此宿
は何といふや夜は何時そ宿はかさぬかと云番の者共
答へけるは此所は中田と云夜ははや四ツ過なり宿の事は
思ひもよらす今二里行て増田と云所あり宿かす宿也
ゆけといふて一度に笑ふ其時ハ猶々すさましく覚て
側へ立寄其火をかせ煙草呑ふと云て腰をかけ扨なふ番衆よ
我はくるしうもなきもの也しらぬ道に草臥たり旅は心
世《見せ消ち:を|は》情そや少計爰に寝させてたへ結縁なるへしとかきくとき
いひけれは番人等大きに怒り扨〳〵ばか者そ此辺は/御在所(コザイシヨ)なく
て万事吟味有に依てならぬといふに早々ゆけやと拍子木打
さあ送るといふ送られて町端へ出暫立も出さるかいや〳〵また
番奴原に見付られてはよかるましと立行に闇路に迷ふた
かたの人のつらさは増田かと問ふ人もなき道野へを漸たとり
行程に跡の宿とハ違ひ小家少々有て辻番もなし鳴鳥の