翻刻
を思ふにそなみたも出羽の庄司殿か拵へきつきし
所なれはさぞよからん四方に築地の跡もあり又
池も有蓬莱方丈の所かやあやめまこもしけりたり
夜の星は空にひかれ共南殿の桜はなし比しも秋
にて四方の梢は色つけともしらきくもなし月日の
光川の流れ山の姿里の景庭の水なる蛙の声是
そ昔の/模様(モヤウ)ならん爰に石堂共のいくらも有是は
と問ふに小僧いひけるは是社佐藤殿夫婦兄弟
忍ふの十郎吉次吉忠の墓也さもとらしく
見えて/青苔文字(セイタイモンジ)を/埋(ウヅ)みてあり小僧もしらねは面白も
なし其時懐中より心経を取出し静によむされは此
経は大般若の抜書にて殊勝なるとかや愚か手向そと廻
向する夫より西の尾に立渡り小僧いひけるはあれは丸山
花見の嶽北の在家は外波村山口の森迄みえたりいさ帰ふ
といふて帰りけるに/主(アルシ)先御坊是へといふて茶を給はる誠
にか様の御茶いつくにてもたへす何の花香有てかあつき
御情やと悦ひ頓而暇申て又もとの道へ出たりけふもはや
暮方やとかくに道を急くや今行さきは福嶋とねこ町