翻刻
花子班女となり物に狂ひ都にのほり北白川吉田殿に廻りあひ
猶も契りは深草のゆかり恋しき梅若は人商人にかとはされ是
迄途々うられ来て浅茅か原の露霜と消し昔の物かたり
聞に/哀(アハレ)や花子の母あとを尋て隅田川浅茅か原に立出て
鏡か渕を見給ふと晴天の月湖水にうつり西に入るを打詠め
電光朝露のあたなる世を頼みし我もつれて入れとて此
渕に飛入て/終(ツイ)にはかなく成給ふ誠にふるき事ともを思ひ出て
かく斗「月と共に入し鏡の渕みれはあはれにぬるゝ我結哉
「たつね来てあはて消にし露の身の其/俤(ヲモカケ)も見るこゝちして
/実(ケニ)参りける方ならはめつらしき詠も有ぬへし隅田川の向ひに
木母寺とて梅若の寺あり則墓もそこにあり川の瀬に鷗ともならひ
ゐたりそのかみ業平朝臣勅勘の身と成給ひ/山角(ヤマスミ)将監か手に渡り
此川を越るとて浮める水鳥をみて名にしおはゝいさことゝはんと
読給ひしとや我も又心のほとをなかめし也「是まてをきはと
思ひて来る身のわがことはりは立やたゝすや それより浅草の
観音に参詣し大門より見渡せは天か下の衆生等か願念する
所なれは中〳〵いふへきやうもなしやかて手水うかひして/膝(ヒサ)まづき
合掌して南無や大慈大悲の観世音夫仏神は人の敬ふに