翻刻
天下の御老中御寄合日也此時上ると支度する早く九月重陽
になる宿がいひけるは如何に船頭よ此大事申上あやまりになれは
下手も上手もなし爰にて殺さるゝやけふは節法也今生の思ひ
出に堺町へ行てあやつりみるへしと云本よりすきなれは其日はあやつりに
日を暮したり彼是する間にはや十三日に成明日こそ死生の境なり
とかくして明れは何事も天運よと心中に祈念し宵より支度
して明日十四日後藤を案内者にて上る誠に伝奏は我国にて
名も不知天下の評定所なれはさこそあらんと思へは身ふるひ
肝をひやす頓て惣門に詰かけて見れは公事訴訟の人々多く
集る前後の帳に付我身も十八番に付兎角するうちにはや夜
も明て人の面も見えける扨大庭に入て見るに早朝より分し公事
人等は/負(マケ)たりとみえて千筋の縄か付ねほりの大/筒(ツヽ)さゝれて籠へ
行も有又片原には/取(トリ)かきなとにてしはられつらゝのことく懸並へ
たり夫ゟ■いちの内をみれは早我番にあたり名をいふてよふ其
まゝ内へ入てみるに其有様中〳〵すさましきよや五間四面斗の瓦葺の
殿に小石の角を並へて敷中通りに切石をしきて道とす三方は取
放し向一方に四尺斗の高縁あり伝奏の七人衆とて先小笠原山城守殿
徳山五兵衛殿加賀爪甲斐守殿渡部大隅守殿其外次第に居流れ右は