翻刻
訴状左は帳付奥の間は御老中時々/杓木(ヒヤウシキ)打しつまりかへつて
音もせすそこにて羽織脇指取て懐中迄さかす扨取出しに六
尺有余の大男眼さかさまにきれ髭左右へ別れてさなから鬼
形のことく成あら者三人取かぎ万力二三十つゝ左右の腰に付八尺
斗の棒を突我をにらみ是へ参れとよはゝる声は只雷の如く也
我身も此事企し時より命を/塵芥(ヂンガイ)の如く軽くせし事なれ
は今更驚くへきにあらねとも彼等か/怒(イカリ)り声に気をとられすこし
うろたへと見へて門外なる彦六我に気を付んと大音にて御前そと
よはゝる其時急度思ひ/直(ナヲ)し/近(チカ)々とさし寄箱段に手を打かけ
臂をはり七人衆を見やりてせき払ひをする其時くだんのあら者等
我か左右の後に立棒にて背を押又雷声にてよく申せ悪しく
してとつたりくろうなと/怒(イカ)る時に小笠原殿如何に加賀の者何の
訴訟そ我畏て今度南部八の戸と申所にて私船を切破
中物以下迄皆盗取申に付あなたにて様々御断申せとも
更に聞入なき故に此大切なる御前に罷出て候委細は是
に候とうなじに指たる訴状箱をさし上る先汝有増
申せとあり畏て始大畑より終り八の戸の次第を細々と
申上るに長口上なれは其うちに/首(カウヘ)さかり声ひきくなる