翻刻
なれはいかなる/手綱(テツナ)か有てもし取てかへされなは悔るとも
/益(エキ)なし早よき頃そ堪忍せよと様々に仰有其時になり
いひけるは御意にては候へ共最前より御屋敷を頼み申たる
事にも非す然れは今又仰を承るへきやうもなしいつ成とも聞
たき時分は聞申さむと事もなげに申けれは何れも御立腹の
気色にて/若理(モシリ)の口上非にならは汝か事は扨置国の一門も/安穏(アンヲン)
にはあらし其上屋敷の外聞は何とか思ふそと大きなる仰也我等
いひけるは国の親一門はいか様にもなし給へ私も命にかへての事なれは
存分迄は聞申まし御暇申とて立帰り袴取て着夫よりもはや
又訴訟に出る後藤も又大膳殿より御使有て/行(ユク)或はつれ立日も有
又は前後に行日もあり帰りても物不言互見合相立也是又
おかしき挨拶なり去共金増ても不_レ言又公事にも不_レ出とて
退屈さする思案なりかくする程にはや霜月中旬になる又
御屋敷に寄合有て我をめす先日のことくに/細々(コマ〳〵)と仰られ上
の屋敷より何とてか聞せさるそ後むつかしくならは屋敷の難に
成へきそ/早(ハヤ)よき時分なるよと度々の使そや其旨国へも飛脚
立たると委細に仰渡さるゝ我も/倩(ツラ〳〵)思案して少斗の酒手金
にて口惜くは思へ共霜月十五日に終に堪忍せし也十六日に大膳殿