翻刻
聞所はいつくそおしへ給へ老僧いひけるは是より行て見よ
墓も多し一段高き所に横山一門小栗十人の墓有又
上野か原とは何の野やむかし語り程にはなしといふて老僧
は申せにけり行て見るに墓原や別して替りたる事も
なし夫よりもとの道に出て/小幡(コハタ)の里も近嶋や爰には何を
/駿河(スルカ)町はにうの渡しを打越えてゆけは向ひは平塚や爰
にて馬に/乗(ノリ)町の末に橋有/馬士(マゴ)がいひけるは是は花水の
橋とて四十三間有御存知かと云いや始而の事なれは/曽(カツ)て
不知此道の名所委しく語れといふ程にはや/唐土(モロコシ)か原と
いふ取あへす狂歌とやらん「/相模(サカミ)かたむさし野近き/名所(ナトコロ)は
やまとにあらぬ/諸越(モロコシ)かはらそれより少行て爰社十間坂と
いふ彼吉盛にをとされて/爰(コヽ)迄馬/牽(ヒカ)せたるとや山下宿
かわらん名所は猶も大儀の長者が屋鋪の跡みれは爰に何様よの
つねの者の二人斗して持そうなる青色の石あり此石こそ/諸(イハレ)
あり/能男(ヨキヲトコ)か/持(モテ)は軽〳〵あくる/悪(アシキ)男には/曽(カツ)てあからさる故に/色(イロ)
好の/虎石(トライシ)といへり石さへも左あれは/誠(マコト)の虎は嘸あらんなふ
旦那殿と語る我いひけるは暫くまてや男ぶりこそ似す共
貧なる所は祐成も我にはまさらし持て見せんと云まゝに馬より