翻刻
をり/強力(ガウリキ)を出して気はれ共責て動きもせす扨はあしき男
そと/馬士(マコ)と共にうち笑ひ又打乗て行程に曽我の古里脇に
みて並木の松原まな鶴か崎鴫たつ沢に小磯の森梅沢/吾妻(アツマ)の明神
を心静にふし拝みゆけは程なく小田原や爰こそ/外郎(ウイロウ)の名所也
少斗買へきと思ひ見世に立よるに内より茶の菓子の馳走して
頓て五十文迄かわせけり其夜はそこに泊り夜明けて/足柄(アシカラ)山を上る
に中々聞及しよりは難所なり湯本の橋を打渡り/深山(ミヤマ)おろしに
すゝも沢猶行さきは大沢のさひから/白水柏木(シラミツカシハキ)坂彼祐成や時
宗かやたての杉を右になし上り〳〵て行ほとに頓而峯の権現に
参り御/手洗(ミタラシ)の内水を/手水(テウズ)にむすひ爰彼を拝み廻り彼時宗
か学文所虎か髪をおろせし跡なとむかし今に思はれてあはれ
にも相みへける扨夫よりも前の/縁(エン)に出て/御手洗(ミタラシ)川を見渡せは
湖水/渺(シヤウ)〳〵?として彼又/悠々(ユウ〳〵)たり/実(マコト)に峨々たる嶮山に此池の有様
こそ神妙の業と思はれていとゝ/貴(タツト)さに「世の中の頼む心はかはる共
山川と共に神はかはらし扨御前を下向してさいの河原にしやうか
嶋はや御番所に着手形を渡して通り町へ出て見物しまた
四里の坂をは下りけるかたき道こそ石原のいつ迄ゆけと長坂や
はら〳〵とふる大時雨今そはしめて大坂を三嶋の宿は是とかや