翻刻
思ふ所に其年は/廿(ハタチ)計の女の/美目(ミケ)/皃(カタチ)も/常尋(ジンジヤウ)なるか髪を
さばき手に/数珠(シユス)を持川端に立て水中を拝む何とするそと
見居れは其まゝ川に飛つかり逆巻浪に身をなげて
浮ぬ沈みぬ流れける折節助くる人もなし我見て其故は更に
しらね共其まゝ刀脇指をぬき置飛入てたふさをとつて引
上る余程水のみたりとみえて暫く息もせさりしか其内集り
逆にして腹をおすに目口より水を/吐(ハキ)出す気付なとふきて
後息出たり先着物をぬかせ/傍(ソハ)なる人の/着肌(キハダ)をきせ其故
を問ふに女いひけるは恥かしなから/自(ミツカラ)は此町の中にて或
人の/目懸(メカケ)成しに其本妻余り/嫉妒(シツト)ふかくあるもあられぬ故にかく
せしを恨めしくも是になる人の/情(ナサケ)なやなふ今そまた命もお
しやとてさめ〳〵と泣居たり其時我等いひけるは死なてかなはぬ
事にてもなし是よりいつく如何成方へもゆきいかなる縁に
も身を立よあたあたら命そといひて頓て我も川を渡りゆけは
程なくまりこの宿宇都の山辺のほそ道をおりつの上りつ岡
辺の宿藤枝こへて見渡せは/幽(カスカ)にみゆる嶋田の宿音に聞えし
大井川東道一の大内なり川越の者二三人来ていひけるは此川と
申すは瀬の遠き川にて水ははやくしかも下は丸石にて一ツ/蹴(ケ)