翻刻
うそをつきたり此/科(トガ)はいかにいや我は親に/不孝(フカウ)な
れはとかく仏にはなられまいといふて/泣(ナク)もあり又
若き者共は何の分もなしいざこひ/腕押(ウテヲシ)せうと
云て力こぶを出しこぶしを/握(ニギツ)て飛/廻(マハ)るも有心々に
ふるまふをみるにもいとゝ/悲(カナ)しさはあの花のやうなる
若者共をけふ明日のうちに/皆底(ミナソコ)のみくずと成へき
こと思へはむねふさかりて前後も更に/弁(ワキ)まへす其中
に/艫取(トモトリ)/親仁(ヲヤジ)そいふやうとても死する命なから皆に
不叶なから/一先(ヒトマツ)橋舟にて上りて見ましやよも/仙台(センタイ)
地まては流れし物をいまた南部の沖ならんそ/去来(イザ)此
事船頭殿に申さむとて我前に来て/角(カク)といふ何某いひけるは
誠に/各(ヲノ〳〵)がいふことく上り度ものなるか/倩(ツラ〳〵)おもふにけふ早
三日ほと/糧(カテ)絶たり然るにより力おち/働(ハタラキ)かたからん今
一里の間にて/汀(ミキハ)を見かけたり共/危(アヤウ)かるへきそやまして
目の及ふ程には山もなしたとへ又命目出度上るとも
今此船に/離(ハナ)れての命何にかせん汝らはあの弟共を
伴ひて早々上れよ命めてたくは古郷にて我かなれの
/果(ハテ)を語るへし我に於ては上るまし是まてか限り也