翻刻
/梓(アツサ)弓矢はぎの宿に来てみれは「名も上るりと語る其
夜は義経よ長のしめしに後は牛若おろかなる/口号(クチスサミ)と
出るまゝにして人の笑ひをかへりみすいぐちの/嘯(ウソ)も心慰み
とやらん扨松崎の郷を打過て今村西田のあなたには彼八橋の
跡有とむかし男もから衣きつゝ馴にしいにしへをあはれと問
て行ほとに沢辺に咲る杜若今は/地鯉鮒(チ リ フ)の宿すきて/芋(イモ)
/河村(カハムラ)も今岡も今は尾張と/鳴見(ナルミ)の宿をとに聞えし笠寺
を爰にとへ町うち過て熱田の宿に着にける先神前に参り
つゝ/宮造(ミヤツクリ)りを見るに中〳〵にふるき軒端の神さひて/檜皮(ヒハダ)
もやねも/蔀(シトミ)/遣戸(ヤリト)に至迄と所々か破れたり頓而/垢離(コリ)をとり
神前にむかひ/掌(タナコヽロ)を合せ/八刀(ハツトウ)の大明神一家の親類まて安穏
ならしめ給へと心/閑(シツカ)に祈念する面に/座(ザ)したる祢宜等折烏帽
子に/直垂(ヒタタレ)着て金表紙の巻物をさつと披き我か前に持来る
いつくの国の人そ殊勝にかへ一紙半文の/志(コヽロサシ)あらは是につき給へと
言程にみれはいつくの国の誰〳〵銭十文なと付たり我も其
まゝ筆を取て加州吉崎の住長屋何某十二文祈祷のため敬白
と書付たりそれより下向して町へ出宿を取て/支度(シタク)をし扨
桑名への舟に乗る其舟に社九人/水主(カコ)の大船なるが凡百四五十