翻刻
問ふに彼者共かいふやうはされは社/弁才(ベサイ)船は出羽の平沢へ
/馳上(ハセアケ)中物船がふらまて一つもなく本庄の宿に路銭かりて替〳〵
のほられたるといふ又組舟は出羽の内より所々にて痛みしを/繕(ツクロ)
ひつくろひ上りしに越後の/新潟(ニ井ガタ)の川口へはせあけ中物みな流れてから
船にて二艘共にやう〳〵此程上られたりと語るこれを聞より
はつと思ひ其まゝ食もすゝますあら口惜や今まては彼
船共を/助(タスケ)にしていかなる事をもしつらひてまたむかしの世に
なさむと社思ひしにまことに/弓折矢尽(ユミヲレヤ ツク)るわか仕合人の見聞も
恥かしくと暫く物をそいはす思ひ返して我か身も若し
またよき兄弟も有家来共も多けれはいかなる思案も廻し
二親も/慰(ナグサ)めん物をと我と心を取直し其夜は雪中の草臥に
前後もししらす臥けるか翌日は又北風にて大/雪吹(フヽキ)也宿いひ
けるは今日は下方へは思ひもよらす魚うり共も皆逗留なり明日
風止て行給へといふいや〳〵片時も宿へ帰りたしといふて装束
をなして行ほとに古郷にも定めて我を松本や/久末(スエヒサ)とをく
なかむれは風に吹雪の烈しさは川瀬も見えぬ舟橋をうち渡り
つゝゆく程に笠にも雪をもり田の宿石もる里の人ならは何と
いふ共かたからんさむき/雪吹(フヽキ)の身をせめて行さきとをき長崎