翻刻
大に怒りて奪戦数刻銃丸雨の如し此時城間鎖
子親雲上丸に中りて倒ると均しく薩兵の其首
を挙るを見るや城兵怖れて敗走し復た一人の
支ふるもの無し此日薩軍の死傷亦少なからす
時に大慈寺龍雲市来織部村尾笑栖等那覇に在
り具志上王子尚弘は西来院菊隠名護按司池城
安頼豊見城盛続江洲栄真喜案津見らを率ゐ親(オヤ)
見世(ミセ)《割書:役所|名》に来り三司官等連署の謝状を捧け降
を乞ふ久高衆議の上之を許す是夜具志上王子
は尚寧の寝室に入り諭して曰今日の現状如何
ともすへからす人或は曰優柔不断にして汚名
を後世に残さんより潔く城を枕にせんには若
かすと是武夫小人の言のみ大人君子の取る所
にならす顧みれは内殿夫人在ませり侍婢亦少
からす惨状を眼前に見ること固より美事にあ
らす況や社稷を失ふをや臣か見る所によれは
速に城を下り尚家を全ふし永く宗廟の祀を保
たんにはしかすと言畢て涙々雨の如し尚寧曰
吾は汝に従はんと袖浸しつゝ夫人を携へ板輿
に駕して城を出て名護按司の宅にそ舎りける