翻刻!江戸の医療と養生

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日ごとの心得 - 翻刻

日ごとの心得 - ページ 8

ページ: 8

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【右丁】 子をすてゝ死せしものこれまたおびたゝしなかにもあはれ なるは乳(ち)のみ子のなきさけびて乳房(ちぶさ)をくはへれども母も食事に遠(とう) ざかりし身なればちゝは露(つゆ)ばかりもいでず子はうゑにせまりてちぶ さをくひきりまたは父の膝(ひざ)にくひつきて病犬(やまいぬ)【注】のどくにくるひしかば せんかたなくひつや長もちの類におしいれ死するをまちてとり すてしと也かゝるあはれにひきかへて若者どものうゑにせまり しは常の心を変(へん)じ徒党(とたう)をなし村々の大家に押(お)しいり乱妨狼(らんばうらう) 藉(ぜき)いはんかたなくみだりに諸色をうばひとり甚しきに至りては 領主の城下 地頭(ぢとう)の居(ゐ)所までたせいにておしきたりおほごゑあげて あばれ入 穀(こく)屋〳〵を始として物持の家くらとうをうちやぶり 昼夜(ちうや)の騒動(さうどう)たとへんに物なく其中には盗賊(とうぞく)もまじりしこと なれば心うかりし世のさまなり里々町々だにかくあればまして 【左丁】 いはんや道はしにては辻切 追剥(おひはぎ)などありて旅(たび)人を殺し衣類 をはぎとり金銭をうばひしかば往来(ゆきゝ)の人々いかばかりのなん ぎにかあらん大平無事の世中も飢渇(きかつ)にせまれば無法非道の人 情とかはり言語(ごんご)にたえしことどもなりさればこそ恒の産なき ときは恒の心なしといひ又小人 窮(きう)すれば斯(こゝ)に濫(らん)すとは聖賢の至(しひ) 言(けん)にて実(け)にありがたき示(しめ)しとしるべし○右の如くなれば人々の生 涯に此きゝんのなんのあらんことをわするべからず毎日食にむかふとき はつゝしみて食し美食(びしよく)菜好(さいこの)み抔(など)は深くもつゝしむべきことなり 銀鶏若年の頃萩原大麓先生の門にいりて素読(そどく)をうけしに或 時先生 美食(びしよく)菜好(さいこのみ)をいましむるの説(せつ)を友人何がしにとかれしを おのれ側(かたはら)にありてきゝ侍りしがいともありがたきことなりと 心に深く感(かん)ぜしゆゑ夫より四十年来の今にいたるまで朝飯に 【注 「やまいいぬ」の意。病気の犬。】