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りたる呵責(かしやく)にも。たぐひまれなる責苦(せめく)なり。かゝる折(おり)しも。とり次(つぎ)の者(もの)
はせまゐり。黒星(くろぼし)眼平(がんへい)只今(ただいま)帰国(きこく)つかまつりおん次(つぎ)にひかへ。おんめしを
まち候ときこゆれば。道太(だうけん)打聞(うちきゝ)。それいそぎこれへよべといふにぞ。かしこみ
候とて退(しりぞ)きぬ。ほどなく眼平(がんへい)まかりいで。椽側(ゑんがは)に頭(かしら)をさげていひけるは。
月若(つきわか)どのゝゆくへをたづね。おん首(くび)打(うち)てまゐれとのおふせにより。所々(しよ〳〵)
方々(ほう〴〵)をたづねもとめ候うち。註進(ちうしん)の者(もの)ありて。丹波(たんば)の国(くに)穴太(あなふ)の里(さと)に住(すむ)。
六字(ろくじ)南無(なむ)右衛門と申す者(もの)。かくまひおくよし聞(きゝ)いだし候ゆゑ。いそぎゆき
むかひ候 所(ところ)に。彼者(かのもの)いかゞしてか打手(うつて)のむかふ事を知(しり)。若君(わかぎみ)をつれてのがれ
去(さ)り。ゆくへしれずなり候。なむ右衛門と申すは別人(べつじん)ならず。佐々良(さゝら)三八
郎がことに候と。仮首(にせくび)をうけとりし。おのが越度(おちど)はおしかくし。まことしやか
に相(あい)のぶる。蜘手方(くもでのかた)これを聞(きゝ)。そは残念(ざんねん)なり。しかるうへは。いてふの前(まへ)を
せむるも無益(むやく)なり。かれはとくに殺(ころ)すべきはづなれども。畢竟(ひつきやう)月若(つきわか)の
ありかをいはさんばかりに。今日(こんにち)までもいけおきぬ。もし大殿(おほとの)の心(こゝろ)かはり
て。助命(ぢよめい)などあらば。後日(ごにち)のさまたげなり。とく〳〵かれを殺(ころ)すべし。
月若(つきわか)三八郎がゆくへは。なほきびしくたづぬべし。道犬(だうけん)そちはいかゞ思ふ
やらんとのたまへば。道犬(たうけん)うなづき。それがしも左(さ)こそ存(そんじ)候へ。さるからは片時(へんし)
も猶予(ゆうよ)はよろしからず。幸(さいは)ひ日(ひ)もくれなんとすれば。今宵(こよひ)のうちに御
首(くび)打(うち)候べし。いかに眼平(がんへい)。なんぢいてふの前(まへ)どのを乗物(のりもの)にのせ。夜(よ)にまぎ
れて岩倉谷(いはくらだに)にかきゆき。ひそかにおん首(くび)打(うち)て来(きた)るべしと命(めい)じければ。
眼平(がんへい)腹心(ふくしん)のしもべをよびつぎ。庭(には)さきに乗物(のりもの)をかきいれさせ。夢(ゆめ)現(うつゝ)
にて打伏(うちふし)たる。いてふの前(まへ)を。情(なさけ)なくもあらなはにて高手(たかて)小手(こて)にくゝし
あげて。乗物(のりもの)におし入(いれ)。しもべにかゝせつきそひて庭(には)づたひにいで岩倉(いはくら)