翻刻!江戸の医療と養生

コレクション: 模範解答付きコレクション1

昔話稲妻表紙 - 翻刻

昔話稲妻表紙 - ページ 12

ページ: 12

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といふ夫婦(ふうふ)中むつましく。ほどなく男子(なんし)誕生(たんじやう)あり。其(その)名(な)を月若(つきわか)といひて。 今年(ことし)七才にぞなりぬ。其(その)比(ころ)義政公(よしまさこう)。京都(きやうと)室町(むろまち)に新館(しんくわん)を営(いとなみ)て花(はな)の御所(ごしよ) と号(ごう)し。兼(かね)て花車(きやしや)風流(ふうりう)を好(この)み玉ひ。近仕(きんし)の士(もの)も列侯(れつこう)の子息(しそく)のうちより。 美男(びなん)を撰(えら)びて召(めし)つかはれけるが。桂之助(かつらのすけ)兼(かね)て美男(びなん)のきこへあるにより。此(この) 撰(えら)びに入て京都(きやうと)にめされ。右近(うこん)の馬場(ばゝ)の旅館(りよくわん)に住(すみ)。室町(むろまち)の御所(こしよ)に通(かよ)ひて 勤(つとめ)けり。此度(このたび)桂之助(かつらのすけ)にしたがひて。上京(じやうきやう)したる家士(いへのこ)は。執権(しつけん)不破(ふは)道犬(だうけん)一子(いつし)。 不破(ふは)伴(ばん)左衛門 重勝(しげかつ)。長谷部(はせべの)雲六(うんろく)。笹野(さゝの)蟹蔵(がいぞう)。藻屑(もくつの)三平(さんへい)。土子(つちこ)泥助(でいすけ)。犬上(いぬかみ) 雁八(がんはち)等(ら)なり。去程(さるほど)に桂之助(かつらのすけ)妻子(さいし)は国(くに)に残(のこ)しおき其(その)身(み)独(ひとり)長(なが)々 在京(ざいきやう)し。御所(ごしよ) 勤(つとめ)の気欝(きうつ)つもりけるにや。頃日(このごろ)は病(やまひ)がちになりて折(をり)々 悩(なや)みければ。一時(ひととき)家士(いへのこ) 等(ども)。桂之助(かつらのすけ)が前(まへ)に集(つどひ)。何(なに)がな殿(との)の欝結(うつけつ)を慰(なぐさむ)る事(こと)もやと評議(ひやうき)しけり。さて 当家(たうけ)の重宝(ちやうほう)に。巨勢(こせ)の金岡(かなおか)が画(ゑがき)たる。百蟹(ひやくがい)の図(づ)とて。百種(ひやくしゆ)の蟹(かに)をかきたる 絵巻物(ゑまきもの)あり室町殿(むろまちとの)兼(かね)て古書画(こしよくわ)を好(この)み玉ふにより。御聞(おんみ)に達(たつ)し。御覧(ごらん) あるべきよし命(めい)ぜられければ。国元(くにもと)より。名古屋(なごや)三郎左衛門が一子(いつし)。名古屋(なごや) 山(さん)三郎 元春(もとはる)。彼(かの)巻物(まきもの)を携(たずさ)へてまかり上(のぼ)り。すなはち当(たう)館(やかた)に逗留(とうりう)して ありけるが。兼(かね)て大殿(おほとの)申楽(さるがく)を好(このま)れけるゆゑ。山(さん)三郎 武芸(ぶげい)のいとま乱舞(らんふ)を学(まな) びて扇(あふぎ)とりて名誉(めいよ)の者(もの)なりければ。皆(みな)々 口(くち)を揃(そろ)へて申しけるは山(さん)三郎 上京(しやうきやう)こそ幸(さいは)ひなれ。かれに一(ひと)さし舞(まは)せて御覧(ごらん)候へ。しかし彼(かれ)が舞(まひ)御国元(おんくにもと) にては度々(たび〴〵)御覧(ごらん)ありし事(こと)なれは。相人(あいて)なくては興(きよう)あるまし頃日(このごろ)時(とき)めく 白拍子(しらびやうし)に。藤波(ふぢなみ)と申す女(をんな)あり。年(とし)は十七才のよし。歌舞(かぶ)吹弾(すいたん)の業(わざ)に 達(たつ)し。しかも類(たぐひ)まれなる美女(びぢよ)にて。古(いにしへ)の祇王(ぎわう)祇女(ぎぢよ)仏(ほとけ)なとにもをさ〳〵 をとらざる者(もの)にて候。彼(かれ)を召(めし)て山三(さんざ)が相人(あいて)とし。乱舞(らんふ)俳優(わざをき)を催(もよほ)し玉はゞ いみじき観物(みもの)にて候はんと。伴(ばん)左衛門をはじめ。これをすゝめけるにぞ。桂之助(かつらのすけ)